豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと荒川ライン下りを楽しむ





まつり会館のそばにある駅から秩父鉄道に乗って長瀞に向かう。そこであの有名なライン下りをするつもりなのだ。長瀞駅の正面に切符売り場がある。そこで切符を買おうとしたら、ここで売っているのはBコースだけなので、Aコースを希望する人は、線路をわたって左に曲がってください。そうすれば、そこにAコースの販売コーナーがあるから。言われたとおりに線路を渡って左に曲がり、そこの販売コーナーでAコースの切符を買った次第。

Aコースというのは、岩鼻というところから岩畳までの約三キロを、二十分ちょっとかけて船で下るというものだ。岩鼻まではバスで運んでくれる。そこでバスに乗って岩鼻に着くと、河原に数隻の船が乗り上げている。粗末な艪漕ぎ舟だ。でも二十人くらいは乗れる。ただしぴったりと身を寄せ合うようにしてである。我々三人は、舟の最後尾に腰を下ろした。船の前後に漕ぎ手がいて、艪を操りながら船を進めていく。後ろにいるほうの漕ぎ手が、いろいろと解説をしてくれる。今年は台風のせいで荒川が大いに荒れ、そのため一か月ほどの休業を余儀なくされ、昨日から運航を開始したのだという。我々は実にラッキーだったわけだ。あの台風では、この辺の水位も十メートルも上がり、それはすさまじい勢いでした、と漕ぎ手はいいながら、両岸の岩に水が侵食したと思しき部分に注意を促した。たしかに、かなり高いところまで水の上がった形跡が見える。こんなことは、自分が知っている限りこれが初めてですと漕ぎ手は言う。もっともその漕ぎ手はあまり年齢を重ねてきているようには見えなかったが。



舟は水を満々とたたえた川を下って行く。ところどころ流れの早いところがあって、そこをさしかかるときには、水しぶきが上がって濡れるほどだ。客の中に、昨年も来たと言う人がいて、昨年は水が少なくて途中から引き返したほどでしたが、今年は実に水量が豊富ですな、という者がいる。まだ台風の余波が消えず、荒川は増水した状態が続いているということらしい。

小生も以前荒川下りをしたことがあるんだ、と熟女たちに言う。まだ現役時代に、公務出張中埼玉県の役人から接待され、荒川下りを楽しんだものだ。あれは初夏の頃だったが、新緑の中を船で下り、水しぶきを浴びたことを覚えているよ。気持ちがよかったね。

舟から上がると、岩畳といわれるところを散策した、川岸に沿って六百メートルばかり岩の壁が続いている。その上に多くの流木が流れ着いているのが見えるが、これは氾濫によって運ばれてきたものだろう。地図で見ると岩畳の先に、自然博物館があることになっているのだが、どういうわけか、そこに通じる道が見つからなかった。我々は仕方なく元来た道を引き返し、長瀞駅に向かった次第だ。途中の道沿いに多くの土産物屋が連なっている。土産のお菓子などを試食させる店もあるので、腹の具合が収まらないT女は、おかしや漬物を次々と試食しては、多少の足しにしたようだった。

長瀞駅について見ると、池袋行きの直通列車があるという。我々はそれに乗って池袋迄戻って来たのだったが、なにしろ二時間あまりもかかったとあって、小生などは尻が痛くなるほどだった。尻の肉がごっそり落ちて、薄っぺらくなってしまい、自分の体重を支えるだけのクッションにならないのだ。

池袋北口一帯に俄かに中華街が出現しているという。ネットで調べると、界隈一帯に三百から四百件の中華料理屋が進出しているそうだ。そこで我々は、どこか快適な店はないかと物色しながらあちこちを歩き回った。なるほど中華料理の店があちこちに見える。池袋がこんなふうになったのはつい最近のことらしい。

ロマンス通り近くの複合ビルに、四川料理屋があるのを見つけて、そこに入ることにした。一路香という店で、ビルの八階にある。エレベータを下りて店の中に入っていくと、愛想のいい女性従業員が我々を大きなテーブルに案内してくれた。席に着くや、T女が万歩計を取り出す。14.000との表示が出る。小生もガラケーを取り出して万歩計のデータを見る。こちらは12.000歩だった。ほとんど同じ距離を歩いてデータが異なるのは、男の方が歩幅が大きいからだろうと小生は分析してみせた。

そこで我々は、生ビールで乾杯した後、小生は紹興酒を、熟女らは八海山を飲みながら、七皿の四川料理(うち一皿は店のサービス)とどんぶり一杯の酸辣湯麵を平らげた次第だった。とにかく辛かった。舌がしびれるくらいだ。

卓上、例によってとりとめのない話をするうちにも、消費税があがって一層暮らしにくくなったことなどが話題に上る。消費税が上がったうえに、野菜は高値安定だし、ほんとに暮らしにくくなったわ、と熟女たちは嘆く。小生も同調して、このあいだも近くのスーパーに買い物に行ったら、ねぎが一本百七十円もするのでびっくりしたよ。胡瓜だって一本が七十五円もしていた。この調子だと、好きなものも食えなくなるね。じつに世知辛い世の中になったものだ。そう言って我々は揃ってため息をつくのであった。

ところでオリンピックのマラソンが札幌に移転してしまって、がっかりだわ。わたしなんて、しっかり応援しようと思っていたのに、小池知事にはもっと頑張ってもらって、東京で行うようにしてほしかったわ。そう熟女たちが言うので、いやあれは、小池さんがいくらがばっても覆せないでしょう。彼女が一生懸命に反対しても、ヒステリー婆さんの嫌がらせくらいにしか受け取られないと思うよ、と小生は事態を実証的に分析して見せたのだった。

ともあれ今日は、青空の下で気持ちのよい一日を過し、あまつさえおいしい料理をたらふく喰えて、とても満足できる一日でした。次に会う機会には、M女も加われることを祈って解散としましょう。そう言って我々は、それぞれの家路についたのだった。




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