豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと秩父を歩く





豊穣たる熟女の皆さんと秩父を歩いた。今回もM女は参加できなかった。小生は先日彼女と電話でやりとりをしたので、その際のことをT女とY女に語って聞かせた。体調が悪くて、いくつかの病気に同時襲来された上に、うつ病の症状が甚だしいのだという。人と話すのも億劫なので、電話がかかって来ても出ないようにしているそうだ。そう言ったところが、道理で何回電話をしても通じなかったわけだわ、と二人はため息をつく。少なくとも今年いっぱいは外出できる見込みはないので、年が改まって調子が上向いたら、どこかで食事でもしましょうと言って、電話を切った次第。来年の新年会にでもまた声をかけてみよう。

さて、我々残りの三人は、池袋駅の西武線改札口で集合した。特急券を買おうとしたらもはや売り切れ。秩父直通の電車はないので、駅員に相談してみたところ、急行に乗って飯能までいけば、そこで秩父行きに接続しているという。その言葉に従って我々は急行電車に乗って飯能まで行った次第。そこで秩父行きのローカル列車に乗り換えたのだが、これがまたすさまじい込みよう。特急券の売り切れといい、ローカル列車の超満員といい、なにか特別の原因があるのかしら、と皆でいぶかったところだが、その理由はすぐに明らかになった。

秩父駅周辺では、秩父鉄道開業五十周年を記念したイベントがあって、それを目当てに大勢の人々が押しかけているのだそうだ。横瀬駅では、昔懐かしい電車の陳列があり、またSLに乗って短い旅を楽しむことができる。それを目当てにした鉄道ファンが集中したということらしい。おかげで芋を洗うような混雑ぶりに巻き込まれたわけだ。

十一時近くに秩父駅に到着した。駅舎を出ると透き通るような青さの空が広がっていた。秩父神社方面へ向かって歩く。秩父鉄道の線路を渡って右に曲がり、ずっと歩いて行くと、やがて突き当りに秩父神社の鳥居が見えて来る。境内にはそこそこの参詣客がいるが、そう多くはない。我々は正殿を拝した後境内を散策。折から菊の展示会が催されていて、さまざまな形の菊が眼を楽しませてくれる。一本の茎から巨大なオブジェを演出しているものもあって、どうしたらこのような芸当ができるのかと、熟女たちは思案気だった。



そのうちT女が空腹を訴えたので、多少早めの食事をとることとした。参道沿いにある蕎麦屋に入る。通りからはだいぶ奥へ引っ込んでいて、その様子が洒脱に見える。狭い路地を通って仕舞屋風の店の前に出ると、窓から亭主が顔を出して、玄関から入ってずっと奥へ進んでくださいという。そこで三人揃って玄関をくぐり、靴を脱いで座敷へあがり、廊下を奥へ進んでいくと、一杯飲み屋風の空間があらわれた。そこには畳の間の縁に沿ってカウンター式の席が設けられ、足をのばして座れるようになっている。

三人席に並んで、メニューを見せてくれというと、亭主は壁に貼ったメニューを指さして、この店のおすすめはこれだといって、健康セットと書かれた部分を強調する。ここでこれを食わないと話にならない。なにしろこの店は、昭和二年の開業で、秩父ではもっとも古い部類に属する。そこでこの健康セットを食べれば、間違いなく健康になれますよと、言葉巧みに勧める。そこで我々は、三人ともその健康セットなるものを註文した次第だ。まず、木綿ごしの豆腐が出てきた。ついで黒はんぺんなるものが出てきた。これはいわしのすり身を軽く焼いたもので、原料のイワシは毎日焼津から取り寄せているのだそうだ。そばはこしがあって、それなりにうまかったが、なにせ量が少ない。T女などは、これでは腹がふくれないといって不服そうであった。

それはともあれ、ビールを註文したらサッポロ黒ラベルが出てきた。そこで小生は、自分も普段、家ではサッポロ黒ラベルを飲んでるが、蕎麦屋で出て来るのは珍しいねと言ったところ、ビールといえばサッポロ黒ラベルに決まってます、男は黙ってサッポロ黒ラベルを飲むべきなんです、スーパードライなんどはビールのうちに入りません、と亭主は依然鼻息が荒い。アサヒビールの社長が気にいらないようだ。我々は亭主の剣幕に押されて、もう一本サッポロ黒ラベルを註文した次第だった(一本七百円もした)。

食後まつり会館を見物した。傘鉾と屋台がそれぞれ一台ずつ展示されている。また、四囲の壁を利用して、そこに祭りの様子をビジュアルに再現している。脇の部屋には映写室があって、そこで秩父の祭の様子を紹介していた。秩父地方では一年中どこかで祭りが行われているようなのだ。最も盛大なのは、無論夜祭である。夜祭には、二台の傘鉾と四代の屋台が繰り出して、神社周辺を練り歩くそうだ。小生はその様子をテレビで見たことがあるが、なかなか熱気に満ちたものだった。Y女は、バスツアーでその夜祭を見に来たことがあるそうだが、ものすごい人込みで、見物しているどころではなかったという。




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