豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと雨の川越を歩く





豊穣たる熟女の皆さんと今年の新年会の席で、初夏の陽気のよい頃に是非川越の古い街並みを見物しながら歩きましょうよと話し合ったところ、初夏を待つ頃合いには小生から呼びかけた次第だったが、M女が体調不良を訴えてきた。でも是非一緒に行きたいから、日延べをして下さいなと言うので、6月15日に設定しなおしたのだったが、どういうわけかM女とは、そのご連絡が取れなくなったとのこと。いくら電話しても出てこないし、メールにも答えない。残りの二人の熟女は途方に暮れたと言っていたが、M女との連絡は引き続き努力するとして、川越へのハイキングは予定通り決行しましょうということになった。ところが天気予報では、当該の日は全国的に雨の雲行き。そこでメールでどうしたものかと相談したところ、Y女は晴女だから、彼女の神通力で、雨雲を追い払ってくれますよとT女が太鼓判を押す。小生は風邪気味で最悪に近い体調でもあったのだったが、彼女たちを楽しませてやりたいとの一心から、病身に鞭を打つようにして出かけた次第だった。

そんなわけで、午前九時頃に東京駅三番線ホームの神田方面最先端部にて待ち合わせ、大宮で川越線に乗り換え、十時半頃川越駅についた。電車に乗っている間中、雨はかなりな勢いで降っている様子に見えたが、川越に着くころには、Y女の神通力に追い立てられて止むのではないかと、甘い期待を持っていたのだった。だが、その期待は無残にも破られ、雨は一向に止む気配はない。仕方なく、糠の如く降る雨の中を、終日川越の街を三人傘を並べてさ迷い歩くことにはなった次第である。

まず駅前から市内循環バスに乗って、市立博物館に立ち寄った。もし天気がよろしければ、中院や喜多院に立ち寄るつもりでいたが、この雨では散策を楽しむどころではなかろう。実際、この日の博物館の玄関先には、大勢の子供たちが軒先に雨宿りしながら、弁当を食べているところであった。遠足の子供たちだろう。天気がよければ、この子たちも中院とか喜多院の緑の中で、弁当を広げ、楽しい食事をしていたに違いないのだ。でも、たとえ雨の中とはいえ、友だちと一緒に弁当を食べるのは楽しいと見えて、みな幸せそうな表情をしていた。

市立博物館には、川越の歴史がよくわかるように資料が展示されており、町を歩くにあたっての基礎知識を得るに都合がよい。その期待は裏切られず、彼女らはコンパクトな展示物やらガイドさんの親切な解説から、川越という町について、一定のイメージを得たようであった。川越といえば小江戸と呼ばれ、江戸の昔を彷彿させる古い街並みとならんで、日枝山王神社の祭にならった祭礼が有名であるが、この博物館は、川越の経済的な発展に焦点をあてて、祭の紹介にはあまり力を入れていなかった。そこが、残念といえば残念であった。

12時半頃博物館を辞し、先ほど下りたバス停でバスの来るのを待ったが、いくら待てども来ない。そこでT女を博物館に派遣して、事情を聴いてもらったところ、中心街に向かうバスの停留所は、通りの反対側にあるとのこと。だがバスは行ったばかりで当分来ない。通りの反対側には大きな駐車場があって、そこにタクシーが止まっているのが見えたので、それをつかまえようとして向かったところが、もうすぐというところで、行かれてしまった。途方に暮れていると、駐車場の番人が出て来て、タクシーを呼んだらよいと言ってくれた。そこでタクシーを呼んで、古い街並みの起点となる札の辻という所に向かった。

どこかうまいものを食わせる店はないかと、タクシーの運転手に聞いたところ、うなぎのうまい店があると言う。しかし場所を聞くと、目的地から大分離れたところにあるようなので、札の辻近辺でうまいところはないかと重ねて聞いたところ、蕎麦屋と豚肉料理屋があると答える。T女は朝から何も食べていないので、がっつりとしたものが食べたいと言う。そこで豚肉屋に案内してもらって、二階にある店に上って行ったところが、店主が出て来て営業は終ったばかりだと言われる。じゃあ、この近辺でうまい店を紹介してもらえないとか尋ねたところ、店主はしばらく思案したあとで、もし限定メニューでよろしければ、特別サービスでご用意しましょうという。その限定メニューというのは、ウナギ飯とソーメンを汲み合わせたものなのだった。腹が減っていることもあり、そのメニューで妥協した次第だが、ウナギ飯というのは、ウナギのかば焼きをぶつ切りにしたものを、蒲鉾状に握った飯の上に乗せたもので、またソーメンのほうは、豚肉のごってりしたスープにつけて喰うというものであった。いま流行の創作料理というものであろう。



腹がいっぱいになったところで、三人傘を並べて、川越の古い街並みを、糠の如く降る雨のなかをそぞろ歩きした次第だった(冒頭の写真)。天気がよければ、印象的な写真がいくらでも撮れるところだったが、それでも、傘を並べた熟女たちの姿が、小ぬか雨にけぶって見える町並みを背景に、独特の映像美を醸し出していたものだ。例の時の鐘は、いまでもつかれることはあるかと聞かれたが、おそらくつかれることはないと思う。観光客向けにつかせることもないのであろう。



この街並みには、かなりの数の古い建物が櫛比していて、その多くは蔵造りだが、なかでもこの写真は、もっとも見栄えがある眺めとして知られるところを撮ったものだ。川越の蔵造り様式のもっとも典型的なものが、二軒並んで立っている様子が、なかなかの迫力を以て迫ってくる。




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