豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと八重洲で寿司を食う


東京駅へは五時半頃に着いた。八重洲口の付近にいい寿司屋があるから、反省会を兼ねてうまい寿司を食っていこうと熟女たちを誘った。熟女たちも乗り気だ。だが、八重洲口の改札を出て辺りを探し回ったがなかなか見つからない。記憶があいまいなのだ。そこでT女のスマホで検索してみたらすぐに見つかった。文明の利器は活用するものですね。

寿司屋は玉鮨といって、ちょっとわかりにくい路地に面していた。中に入るとカウンターのほかにテーブルが数台並んでいて、こじんまりとした縄のれんといった感じだ。我々は一番奥のテーブルに席をとり、まずビールを註文した。そして刺身の盛り合わせとアナゴをつまみにたのんだ。アナゴがなかなかうまい。続いてねぎとろを註文したら、出されたものを食ってからにしたほうがいいですよとマスターにたしなめられた。なるほど、テーブルの上は狭くて、幾皿も載せる余地がない。

今回の旅行は素晴らしいお天気に恵まれて実に爽快でした。命の洗濯になりました。その上こんなにおいしいものを食べられて言うことありません、と熟女たちが満足感を表明する。でもM女は多少苦しそうだったね、と小生が言うと、あなたは日頃運動をしていないから、ちょっと歩くと足がつったりするのよ、もっと運動をするように心がけなきゃだめよ、とほかの二人がM女に説教する。そのM女は、テーブルの上に灰皿が置かれているのを喜んで、早速煙をふかし始めた。煙はもうもうと立ち昇り、あたりを徘徊する。店の中にはほかに煙をふかしているものがいないので、かなり目立つ。そこを気にしたM女は、灰皿を抱いて入り口付近の席に移動し、そこでひとり煙をふかしていた。よほど煙が好きらしい。

おしゃべりしながら寿司を食べるより、ひとりで煙をふかしているほうが好きだなんて、困った人ね、と他の熟女があきれる。まあ、人それぞれだからなんとも言えないけど、タバコはできたらやめた方がいいかもね、と小生が感想を述べる。あなたも以前は吸っていたじゃないですか、よく簡単にやめられましたね、と熟女が言うから、いやあ、タバコをやめるのはそうむつかしいことじゃありません。要は決意次第です。

ねぎとろは、ねぎととろそれぞれ別々に出されたものを海苔に巻いて食った。なかなかうまい。ついで寿司を食べようということになり、T女がいろいろみつくろって註文してくれた。しめさば、赤貝、うに、さんま、どれもネタがよくて舌がとろけそうになるほどだ。マスターが気を利かせてカニの味噌汁を運んでくれる。小生はすっかりうれしくなって、燗酒に切り替えた。あなたも飲みませんかとT女に勧めると、わたしはもうアルコールは駄目ですわと弱気なことを言う。以前はうわばみを自称していたのに、随分と弱気になりましたね。いやあ、寄る年波にはかないません、とT女が更に弱気なことを言うので、あまり弱気になると生きている甲斐がなくなりますよ、と励ましてやった次第だ。

ところであなたは、毎日せっせとブログの記事を書いているようですけど、よくもそんなに書くことがありますね、と熟女たちが感心する。いや、ほかにすることがないので、ブログの記事でも書いていないと、時間がつぶせんのですよ、と小生。私らが感心するのは、あなたが私らと付き合ったことを委細明瞭に記事にすることですわ。記憶力がすぐれていないと、あんな記事は書けません。そう熟女たちが御世辞を言うので、小生はすこし照れたふりをした次第だった。

でもあなたも健康そうで、なによりですわ、と熟女たちは更に、小生の健康を気遣ってくれる。おかげさまでいまのところはこれと言った病気はありません、多少血圧が高めで薬も飲んでいますが、とりあえず体調がどうのこうのということはありません。その証拠にこうしてあなたたちと旅行を楽しむことができます。こう答えたところが、M女があんな具合では、もうこの先こんな旅行は無理かもしれないわね。歩かないでただ温泉に浸かっているとか、あるいは都内で美味しいものを食べながらおしゃべりするとか、なにか別の方法を考えなければならないわね、とT女が言うので、まあ、なるべく楽しい旅行を続けられるように工夫してみましょう、と小生は答えたのであった。

健康が話題になったところで、がん検診の話題も出た。小生は、先日五十年来の友人が全身がんにおかされて突然死したことを紹介し、がんの早期発見の重要性を強調し、併せて自分自身のがん検診の状況などを話した。小生は毎年、胃、肺、大腸、前立腺のがん検査を行っています。大腸はポリープの除去手術を受けたことがありますし、前立腺も昨年異常を指摘されました。精密検査の結果、とりあえず所見はなかったのですが、これからどう転ぶかわからないので、引き続き気をつけたいと思っています。

そう報告すると、男性の前立腺にがんが出来やすいのはどういうわけですかと聞かれるので、前立腺というのは、睾丸で生成された精子をもとに、精液を調合してプールする役目を担っているのです。そこで、年をとって精液の生産がとまり、お役御免になったところを、がん細胞がいたずらするのでしょう、といい加減なことを説明した次第だった。すると熟女たちは、そういえば女の子宮がんも年をとってからできるケースが多いと言いますから、やはり寄る年波のなせるわざなのかしら、と妙に思慮深くなるのだった。

こんなわけで、今回の旅行も、楽しいばかりではなく、なかなか有益な面もあったりして、人間がひとつ洗練されたような気になった次第であった。




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