豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと寿司を食う

豊穣たる熟女の皆さんと久しぶりに会い、寿司を食いながら歓談した。船橋駅の改札口付近で待ち合わせ、旧市役所通りに面した寿司屋しゃり膳に入る。そこで生ビールで乾杯しながら久闊を述べた。昨年はとうとう一度も会えなかったが、それは熟女の皆さん一人ひとりにそれぞれ一身上の不都合が重なり、とても遊んでいる余裕がなかったからということだった。

特にM女については、ご亭主の介護で日々これ奮闘の毎日だったが、昨年の秋口に特別養護老人ホームに入れることができて、やっと介護の負担から解放された。いまは週に一二度千葉の土気にある老人ホームにご亭主をお見舞いに行くほかは、毎日家で気楽な一人暮らしを楽しんでいますという。一人で寂しかないかい、と聞くと、いいえ淋しくはありません。近所に孫どもが住んでいてしょっちゅう遊びに来ては小遣いをねだっていきますので、寂しいどころではないのですということだ。とにかく一人暮らしは気楽でいいものです。今日も九時まで寝ていました、と言うから、よくそんなに寝られるわね、とT女が冷やかすと、私はいくらでも寝られるのですよ、とM女は言う。

それはよかったね、細君を早めに介護の負担から解放してやって、ご亭主は女房思いの好い人のようだね、と小生が感想を述べる。そのついでに早めに死んでくれたらもっと女房思いということになりますね。そうつけ加えたら、そうですね、でもやはり亭主にはいつまでも生きていて欲しいものですよ。何十年も連れ添ってきて、その間にはいろいろな事がありましたが、やはり亭主に先立たれるのは女房としてつらいことです、とM女は殊勝なことを言う。

Y女も親族のことで心労が重なり、やはりとても飲み騒いでいるどころではなかったが、いまは小康状態だそうだ。私のところは老人施設に入れなくても家族でなんとか面倒をみれるような気がします。実家は大家族ですので一人や二人の病人を介護するくらいはなんとかなりそうですから、と言うので、いまどき家族の連帯を期待できるなんてなかなかないことだよ、と小生は感想を述べる。

とにかく皆さん顔色もよく、元気そうなので安心しました。そう小生が言うと、あなたもお元気そうですね、と返される。しかしやはり寄る年波には勝てません、ご覧のとおり髪の毛は真っ白で、しかも禿げあがっているありさまです。そう言うとT女が気の毒そうな表情をしながら、あらそれでもお似合いですよ、とお世辞を言う。年相応ですよ、年をとっても髪の毛が豊かでしかも黒かったらかえって気持ちが悪いじゃありませんか。そう付け加えるので小生もいささか自信を取り戻した次第だった。

あなたとのお付き合いもだいぶたちましたわね。今の会社で随分沢山の上司に仕えましたけれど、あなたさまが一番素晴らしかったと思います。なにしろ余裕があってうるさいことを言わないのがよかった。他の人はなにかとうるさく言うのに、あなたは机にでんと座って何もしない、何か相談しても、「よきにはからえ」だったですものね。私としてはとてもやりやすかったですわ、とこれはお世辞とも皮肉とも取れることをT女は述べた。

ところであんたは昨年の三月いっぱいでやめるつもりだと言ってたけど、まだ勤めているのかい? そう小生が聞くとT女は、やめさせて欲しいとは言ったんですけれどやめさせてくれなかったんです。後釜がいないからあと一年頑張ってくれと言われてやっているんですが、この三月にもやめさせてくれるかどうかわからないのです。とても困ってるんですよ、と言う。そんなの会社の都合なんだから、気にせずにさっさとやめたらいいんだよ、と小生が発破をかけると、20年以上もお世話になったんですもの、そんなに無責任にはできませんわ、と殊勝なことをT女は言う。

Y女はまだ当分体の続く限りはやってみたいと言うので、それならいっそ死ぬまでやって葬式も出してもらったほうがいいよ、と小生はアドバイスする。M女の方は近いうちにまた働きに出ることを考えているそうだ。みな殊勝な心掛けと言うべきだろう。小生のように定年後早めに引退して自由気ままな生活をしている人間には、彼女らの殊勝さはまぶしいほどだ。

小生に関して言えば、目下小説を書いていて、それを近くブログで連載するつもりだから、皆さんも是非読んでもらいたい。こう言うとT女は、あなたのブログは大規模すぎてどこから読んだらよいかわからないわ。小説を書いたんだったら本にして出してくださいな、そうしたら読みますからと言う。今はデジタルの時代なんだから、本の形にこだわるのは時代遅れだよ、と言うと、時代遅れも何も、私のスマホではあなたのブログは読めませんの、と言われた。縦にして読めなかったら横にしたらいいよ。そうしたら少しは読みやすくなるから。

ところで皆さんそれぞれ一段落したようだから、今年は旅行にも行けそうだね、と言うと、三人は寿司をほおばった口を揃えて是非また旅行しましょうよと言った。どこか行きたいところがあるかねと聞くと、やはり温泉がいいわと言う。じゃあ東北当たりの温泉に行くとしようか。例えば会津なんてどうかね、と提案すると、皆さん賛成だと言う。そんなわけで今年の夏休みには四人でまた温泉に浸かりに行きましょうということになった。





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