豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと利根川の源流を歩く




六時半に起床すると熟女たちは既に起きていて、もう風呂に浸かって来たと言う。そこで小生も浸かりに行くことにした。法師の湯は再び混浴タイムになっていて、今回は中年の夫婦者が入って来た。その様子をあとで熟女たちに話したら、ここはフルムーンで有名になったので、みな夫婦で来た記念に一緒に混浴風呂に浸かるのでしょうという推測をした。あたっているかどうかはわからない。ただ小生は、この夫婦のうち女の方の体格が極めてよかったので、その体で腹の上に乗られたら、亭主はさぞ苦しかろうと、感想を述べたのだった。

朝餉は昨晩の場所で振る舞われた。湯豆腐やらさわらの煮つけやら、朝餉にしては手の込んだものを出された。小生は折角の料理だからと理屈をつけてビールを註文した。T女がコップ一杯付き合い酒をしてくれた。

十時近くに旅館を辞し、記念撮影をしたあとで、猿ヶ京行きのマイクロバスに乗りこんだ。中年女性のグループ十数名が一緒に乗りこんできて、バスは定員オーバーになった。それでも運転手は気にせずに、腰を下ろせる所ならどこでも好きなところに座ってくださいと、気楽なことを言った。こんなに大勢の人を乗せるのは初めてなのだそうだ。

猿ヶ京で関越バスに乗り換えた。更に上毛高原駅で谷川岳方面のバスに乗り換え、小学校下というところで下車した。そこは諏訪峡という利根川の源流にそった遊歩道の入り口にあたるところなのだ。その入り口に駅の道の建物があって、土地の土産を売っていた。小生は家人のために林檎を買った。旅館で出された林檎がうまかったので、家人にもおすそわけをしたいと思ったのだ。

諏訪峡の入り口には大勢の高校生が遠足に来ていて、ちょうど弁当を広げる時間にあたっていた。みな元気溌溂としている。そこで、もう一度人生を生きられたら生きてみる気持ちになるかいと熟女たちに聞いたところ、是非もう一度生き直してあの高校生たちのように溌溂とした毎日を送ってみたいという意見と、いや人生は一度だけで沢山ですという意見が相半ばした。

渓流に沿って散策路を歩いた。こんなところにも中国人の団体が押し寄せている。そこで小生はロシアの観光地でも中国人団体が闊歩していたことを紹介し、いまや世界中中国人のいないところはないのだという現実を熟女たちと共有したのだった。

渓流のそばに、季節はずれのあじさいの花が咲き、その傍らには黄色い小菊が咲き乱れていた。こんな組み合わせを見るなんて不思議ねと言いながら、この小菊をおしたしにしたらさぞおいしいでしょうと、熟女たちは極めて現実的な感想も述べあうのだった。

散策路を一周したところで、更に歩き続け、水上温泉の中心街に入って行った。昔はかなりの人出だったはずのこの町も、いまではまったくさびれ果てたと見え、道を歩く人の姿をほとんど見かけない。たまたま通りすがった女性が熟女たちに向かって、いまはお昼休みの時間帯で、どこも御昼寝をしていたり、犬を遊ばせているのですと説明してくれたが、人影が少ないのはそれだけの理由とは思われない。

一軒の食堂を見つけて中に入った。夫婦二人でこじんまりとした商売をしている店だ。そこで小生はハンバーグ定食を註文し、熟女たちはそれぞれ豚肉の生姜焼き定食やら塩ラーメンやらチャーハンなどを註文した。ビールも二本註文しようとしたところが、小生のほかにはT女がコップ半分戴きますというのみなので、一本で我慢することとした。

この食堂の脇に、町営の立ち寄り湯施設があり、そこの玄関脇に無料の足湯が設置されていたので、脚が痛いというT女に是非湯につけて見なさいと勧めた。T女は勧めにしたがって素直に足を湯につけたが、とても湯とはいえない代物だという。小生も念のために手を突っ込んだところが、たしかに水同然といってよいような代物だった。

上毛高原行きのバスを待つ間、国道沿いのコンビニに入って、コーヒーを飲みながら歓談した。この店ではWIFIが使えるとあるので、小生は持参してきたタブレット端末をWIFIに接続し、熟女たちにロシア旅行記を見せてやったりした。

隣の席に一人の老婆が座り、店で買ったミルクコーヒーの紙容器の蓋を開けようとしてなかなか開けられず、難儀している様子なので、見かねたT女が手伝って上げましょうと申し出た。それが切っ掛けで仲良くなり、いろいろ世間話をするうちに、この老婆ははや八十を過ぎて、近くのリゾートマンションに一人暮らしをしていると告白しだした。リゾートマンションには常住してはいけないという規則があるそうなのだが、彼女はもう二十年来ここで一人暮らしをしているのだそうだ。そのことを老婆は申し訳なさそうな表情で言うので、小生は、それはよくあることですよ、別に気にすることはありませんと言ってやった。

とかくするうちにバスが来た。思いがけず満員の状態だ。おそらくこの路線は、谷川岳法方面へ出かける客が多いのだろう。押し合いへし合いしながらバスに乗りこみ、四時ごろ上毛高原駅についた。そこでトイレに行ってから、四時十四発の新幹線車両に乗り込んだ次第だ。




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