豊穣たる熟女たち |
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豊穣たる熟女たちと猿ヶ京を歩く |
過日、豊穣たる熟女たちと佐倉・成田を散策した折のことはこのブログでも紹介したが、その際に、今年の夏には水上温泉郷で温泉に浸かりましょうということになった。そこで夏頃に皆さんを誘ったところ、今年の夏は暑くて温泉どころではないようなので、涼しくなってから行きましょうよと変更になった。そんなわけで、十月も押し迫ってから、紅葉狩りを兼ねて温泉に浸かりに行くこととはなった次第だ。投宿先は水上温泉郷の法師温泉。往昔高峰三枝子のフルムーンの宣伝で有名になった湯だ。 十時近くに東京駅の構内で待ち合わせ、十時十六分発の上越新幹線に乗った。車中まず熟女たちに先日ロシアで買い求めた土産をくばる。マトリョーシカ風の小さな飾りものの人形だ。ロシア旅行は楽しかったですかと熟女の皆さんが興味を示したので、小生は旅行中体験したことを、楽しいことも不愉快なことも併せて披露した。そのうちあなた方とも一緒に海外旅行ができるといいですね。 ついで互いの近況を報告しあう。T女とY女は相変わらず同じ仕事を続けている。M女は勤めを一切やめて、今は一人暮らしだそうだ。というのもご亭主を昨年の夏に老人施設に入れて以来、家に一人で取り残されたからだ。月に二三度、二人いる息子のどちらかが運転して、土気にある施設につれていってくれるのだが、行くたびにご亭主から家に連れて帰って欲しいと懇願されるそうだ。心細いのだろうが、体力も大分衰えて、入所時に72キロあった体重がいまでは36キロしかない。そんなこともあって、本人すっかり弱気になり、俺もそろそろ旅に出ると言うのだそうだ。旅というのは三途の河を越えての旅ということらしい。それで女房に向かって路銀をくれとねだるのだが、この施設では入所者に金を持たせることを禁じている。それで私としては困ってしまうのです、とM女はなんとも情けない顔をして語るのであった。 あなたはどうしてますの、と熟女たちが言うので、ぼくは相変わらず気楽に毎日をすごしていますと答える。奥様はお仕事をおやめになったんでしょう、と言うので、一旦はやめたんですが、毎日亭主と一緒に家にいて、顔を突き合わせているのが面白くないと言って、また勤めに出ています、と答える。あらそれがいいですわ。働けるうちは働いた方が、心身ともに健康的ですもの、と熟女らは他人事のように言う。 列車は十一時半頃上毛高原駅に着いた。そこからバスに乗りこんで猿ヶ京に向かう。猿ヶ京は、赤谷湖というダム湖を囲んで、数件のホテルが点在する長閑な温泉町だ。猿が多く出ることから猿ヶ京と言うとも、上杉謙信が名付けたとも言う。猿はいまでも沢山住んでいて、人間など気にしないでわがままにふるまっているそうだ。そのためお百姓たちには畑仕事をあきらめた人も多い。猿が年寄りを馬鹿にして、好き勝手に畑を荒らすので、とても続ける意欲がわかないのだそうだ。そのお年寄りも次々と死んでいって、いまでは空き家になった建物があちこちに取り残されている。過疎化の深刻さを感じさせられる話を聞いた。 まんてん星の湯という町立の温泉施設に立ち寄って、そこの食堂で昼餉を食した。小生とM女はカツカレーを食い、T女とY女はかきあげ天ぷらそばを食った。天ぷらは油が悪いせいで、多少胸やけがしたそうだ。カツカレーの味はまあまあだった。 食後赤谷湖の周囲を散策した。川をダムでせきとめた人造湖だ。その水際を歩きながら周囲の山々を見上げると、紅葉はあまり進んでいないが、緑がところどころ赤く色づいて心なごまる眺めが広がっている。湖には数人の男女が舟遊びを楽しんでいた。舟遊びといっても、プラスチック製の平たい板の上に乗って、バランスをとりながら水上を進むというものだ。初めて見るので、なんという競技か名も知らない。そのうち一人が板から落ちて水に飲まれてしまった。ウェットスーツを着ているためもあって、あまり気にはしていない様子だ。インストラクターらしい男が、板から落ちないコツを丁寧に教えていたが、ちっぽけな板の上にバランスよく乗っているのは大層骨の折れることのように見えた。 一キロばかり歩いて、また同じ道を戻って来た。M女が一人だけ遅れがちになる。脚がつったと言って苦しそうな表情をしている。T女が自分のしていたサポーターを外してM女にはかせたりしたが、なかなか良くならないと言って、前へ進まない。そのため十分に時間をとったつもりだったにかかわらず、予定していたバスに乗り損なってしまった。 そこで、まんてん星の湯で時間調整をしながら次のバスを待った。バスを待つ間、M女の脚がすっかり弱ってしまったのは、日頃歩くことをしないからだと他の熟女が強調した。人間は脚から弱るので、日頃から脚をきたえなければならないわよ。でないと年を取ることが苦痛になるから。これから老後を楽しく生きていくためには、足腰を鍛えることを怠ってはいけないわ。そういって熟女たちは互いを励ましあうのであった。 バスは三時半過ぎにやってきた。この日の最終便だ。そのバスに揺られること三十分ばかりで法師温泉に到着した。山の中の一軒宿である。 豊穣たる熟女たちと法師温泉につかる 豊穣たる熟女たちと利根川の源流を歩く 豊穣たる熟女たちと八重洲で寿司を食う |
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