豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと鎌倉の海を見る


昼食後鎌倉駅から江ノ電に乗った。熟女たちは電車の窓から海が見たいという。そこでもし海が見えたら、見えるはずの方の窓に熟女たちを案内した。しかし海が見えないうちに、電車は目的地の長谷についてしまった。みなさん残念でしたね。

長谷の停留場を出て長谷寺の方へ向かって歩く。このあたりは谷崎潤一郎の小説「痴人の愛」の舞台になったところだ。痴人の愛の主人公は、このあたりの道を、ナオミの行方を追いかけてさまよい歩いたのだった。我々は無論そんなことはしない。我々は沿道の土産物屋を覗きながら、観音様のいらっしゃる寺を目指して歩いたのだった。

長谷寺の本堂はちょっとした高台の上にある。そこからは鎌倉の海がよく見える。我々は海が見える展望台から由比ガ浜の海を眺めた。海を見た後で、観音さまにお参りした。高さ数丈もある巨像が堂内に厳かに収まっておられる。大仏様ほどではないにしても、背丈はそれに近いのではないか。とにかく大きい。屋内の観音像としては最大級のものに違いない。

堂内には大黒様の石像があって、それに触ると、触った部分と同じ自分の体の一部が良くなるという。筆者は最近両肘の痛みに悩んでいるので、大黒様の両肘を触ってみた。すると、お賽銭をあげないと御利益はありませんよ、あなたはお賽銭をあげなかったのですから、御利益を期待してはいけません、と熟女たちに言われた。観音様は、そんな小さなことにこだわらないと思うけどなあ。

高台から下に下りてくると小さな池があって、そこに金色の鯉が泳いでいた。白い鯉も泳いでいる。こんな色の鯉を見るのは初めてだ。

池の向う側には、小さな洞窟の入口が見えた。中に入ってみると、思ったより大きい。蝋燭の光が堂内を照らし、壁に沿って童子の石像がいくつも並んでいた。中には酒泉童子というのがある。酒呑童子とはどう違うのだろうか。その童子も、触ると御利益があるらしい。もっとも酒飲みになるのをありがたく思わない人もいるだろう。

洞窟から出てくると、傍にかわいらしい表情の童子の石像が立っている。その表情が何ともいえなく可愛らしい。女性本能を刺激するらしく、熟女たちは、皆でこの石像をなでなでした次第だった。

長谷寺を出た後、高徳院の大仏様を訪れた。いわゆる鎌倉の大仏だ。こちらは青空を背景にしているが、やはり大きく見える。高さは13メートル余りだそうだ。外から眺めるだけでなく、一人20円払うと、中にも入れるそうだ。そこで我々は中に入ってみた。

文字通り胎内と言ってよい。仏さまのちょうど腹にあたるところに我々は入り込んで、そこから頭上を見上げると、仏様の首に当たるところが穴のように見える。この穴の上部が仏様の頭部になっているのだろう。

ここにいる間に、この前のような地震が来たらどうしましょう、と熟女たちが言う。かえって外より安心かもしれない、と筆者は応える。何百年も前に作られて、これまでに関東大震災を始め大きな地震に耐えてきたわけだから、余程頑丈に違いない。その辺の耐震建築物よりずっと安全化もしれないよ。

大仏の見學が終わる頃、黄昏時の四時になった。門の外に鎌倉駅行のバスの停留所があったので、我々はそこからバスに乗って鎌倉の駅まで戻ってきた。これから横須賀線に乗って東京へ向かえば、五時半ごろには新橋に着くだろう。いっぱいやるにはちょうど良い時間だ。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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