豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと桧枝岐の温泉に浸かる


旅館ますやに身を投じて一休みした後、4人でミニ尾瀬公園まで遊びに出かけた。10年ちょっと前に来たときにも立ち寄ったことがある。尾瀬の草原に自生している様々な植物を寄せ植えし、ちょっとした自然植物公園のように仕立てたところだ。

旅館を出てしばらく行くと、空が急に暗くなり、そのうち雨が降り始めた。生憎だとは思ったが、天気予報ではもともと雨が降ることになっていたところなので、たいした不満はない。そちらこちらで雨宿りをしながら、時間をかけて目的地に到着した。その少し手前に土合公園というところがあって、入り口に放射線の測量装置が置かれていた。計器を見ると0.054マイクロシーベルトと表示されている。こんなところまで放射能騒ぎで、てんやわんやしている様子が伝わってきた。

計器の上部には太陽パネルが取り付けられている。それで発電をして計器に電力を供給しているらしい。なかなか面白い工夫だ。

公園の前を流れている川を、熟女たちがしきりに覗き込んでいる。何が見えるのかいと聞くと、魚が見えるのよと答える。何の魚かいと聞くと、ニジマスみたいよと答える。あんな風に泳いでいられたらさぞ気持ちがいいでしょうね、わたしもニジマスになりたいわ、と誰かがいうから、ニジマスの世界にも縄張り争いがあって、表向きほど楽じゃないのだよ、と筆者は教えてやった

ミニ尾瀬公園は、桧枝岐川に沿って伸びた湿地に様々な高原植物が植えられてある。今の時期のメインは勿論ニッコウキスゲだが、そのほかにもいろいろな花が咲いていた。小さなトンボの類が群れ飛んでいて、花にとまっている様子が絵になる。

結構広い公園で一周するとかなりな距離になる。途中歩き疲れたので、美術館の建物の中に入り、玄関ホールに置いてあったソファに身を沈めた。

旅館に戻ると、近くにある公衆浴場に出かけた。旅館の中には無論内湯があるのだが、公衆浴場の方が広々として、いかにも温泉気分になれるというのだ。

旅館の女将から無料入浴券を拝借し、4人そろって浴衣姿で出かける。カランコロンと下駄の音を響かせながら歩いていくと、浴衣姿がなかなか決まっていますよと、誰かがお世辞をいう。そういうあなた方の浴衣姿も、なかなか色気がありますよ、と筆者が答える。

番台の人に入浴券を見せた後、筆者が男湯の入り口に向かって歩くと、三人の熟女たちもぞろぞろとついてきた。それを見かねた番台の人が、「もしもし、女湯はそちらですよ」と声をかける。熟女たちは慌ててそちらの入り口に駆けていく。筆者は男湯の入り口を潜り抜ける。

湯殿は結構ゆったりとしていて、外には露天風呂もついている。他には誰もいないので、筆者はその露天風呂に一人でゆったりとくつろぐ。すると隣の方から熟女たちの話し声が聞こえてくる。篠の目の衝立で隔たっているだけで、お互いいくらも離れていないのだ。熟女たちは頻りになにか話し合っているようだが、何を話しているのかは明瞭でない。なんだら、かんだら、夢中で話し込んでいる様子だけが伝わってくる。

旅館に戻ると早速別室で夕食を振る舞われた。山人料理と銘打って山菜料理が中心だ。山うどやら、牛蒡やら、ふき、ぜんまい、みずななど、手を変え品を変え料理されて出てくる。山ウドの香りが何ともすてきだ。

主菜というべきはヤマメの刺身と塩焼きだ。ヤマメの刺身を食うのは初めてだが、肉が結構しまっていてなかなかの美味だ。塩焼きの方は、釣ったばかりのヤマメを串刺しにして焼いたというだけあって、味に迫力がある。一切れ残さず、すみからすみまで食べ尽くしてしまった。

期待していたサンショウウオは、ついに出てこなかった。特別に頼めば出て来たのかも知れないが、そこまでして食べたいとは思わない、と熟女たちはいうのだ。

食後熟女たちの部屋で二次会を行った。宿の女将に頼んで氷と水を用意してもらい、持参してきたシーバスリーガルの水割りを作って飲んだ。T女もY女もうまそうに飲んでいる。

ウィスキーを舐めながらとりとめのないおしゃべりを楽しみ、一段落したところで、皆で内風呂に入りに行った。内風呂の泉質は先ほどの公衆浴場と同じだという。それに対して、もう一つある別の公衆浴場は泉質が違うという。できたら両方とも入ってみたいわ、と熟女たちは言うのだが、時間が許さないので、今回はあきらめることとした。

浴室へ行くと、時間が遅かったせいか、女湯の方にしか明かりがついていない。というより、その場の筆者の認識では、ひとつしか浴室がないという感じだった。そこで今度は筆者の方が、熟女たちにくっついて一緒に入りそうになったのだが、さすがに気が引けて、もう一度よく見回すと男湯の入り口が見えた。灯が消えているので、目に入らなかったのだ。

男湯の暖簾をくぐり、室内の電燈に明かりをともして、一人湯に浸かった次第だ。先ほどとは異なりこちらは、熟女たちの声がもれ響いてくることはなかった。

入浴後も熟女の部屋でウィスキーを飲み続けた。さっきは恥ずかしがらないで、一緒に入ってくればよかったのに、などといって冷やかす者がいる。しらばっくれて、一緒に入ってしまうのも、一興だったかもしれない。

話しは尽きるところがなかったが、そのうち酔いが回ってきたので、いい加減な潮時を見計らい、自分の部屋に引っ込んだ次第だった。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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