豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちとちゃんこ鍋を囲む:両国江戸沢にて

例の豊穣たる熟女たちとともに、新年会と称して息抜きの飲み会をやった。場所は両国のちゃんこ屋江戸沢、この辺に集まっているちゃんこ屋では川崎という店がお勧めなのだが、今日は予約が取れず、ここにした次第だ。

いつもの通り秋葉原で待ち合わせ、総武線の電車に乗って両国駅に至れば、目的の店は東側の改札口を出てすぐ目の前だ。部屋に通されると、早速鍋に火がかけられる。野菜の上に豚肉の大きな切り身と鶏肉の団子が乗っていて、出汁が煮えると、肉の脂が染み出てきて、いかにもこってりとした感じになってきた。味も見た目の通りだ。

そこで筆者は、いつか息子たちのために、とり団子鍋を作ったときの思い出を語った。昔阪神タイガースで活躍していた掛布選手が大の料理好きで、その彼の得意な料理がとり団子鍋ということらしく、それをテレビの料理番組で披露したのだが、それが非常にうまそうに見えたので、自分でも作ってみたのだ。

まず鳥肉屋に行って、鳥のガラを1羽分と鳥のひき肉を500グラムばかり買ってきた。ガラはそのまま鍋に入れて出汁をとる、ひき肉はねぎとしょうがを混ぜて団子にし、野菜とともに鍋に突っ込む、こうしてしばらく煮ている間に、ガラから出汁が染み出てきて、こってりとしたスープが出来上がる、だがあまりにもこってりとしすぎていて、息子らの口には合わぬらしく、結局ほとんど食ってもらえなかった。こんな他愛ない話をしたのだった。

この日のちゃんこも、そのときの記憶がよみがえるほど、こってりとした味だったわけなのだ。だが熟女たちは、息子らと違って文句をいわず、うまそうに食っていた。

両国なんて始めて来るけど、ここはお相撲さんの街よね、あなたはよく来るんですの?とT女が筆者に聞く。昔本所亀沢町の事業所に勤めていたことがあるので、この界隈ではよく飲んだものだよ、地元町会の役員さんたちと、ふぐ鍋を食ったことなんかもあった、この辺はかつて、ふぐ屋が多かったんだよ、と筆者は答える。

ふぐの話が出たところで、ふぐの白子はうまいねという話になった。ほっかりとして食感がよく、香りも素敵だわ、でもふぐの白子はどうしてあんなに大きいのかしら、とM女がいう。ふぐを含む大部分の魚は、人間と違って、一生に一回だけ繁殖のための射精をするんだよ、その一発勝負にそなえて、精嚢を大きくさせておくんだ、それに対して人間のオスは、年がら年中射精しているから、精嚢が大きくなる暇がないんだ、と筆者が講釈すると、熟女たちは一様に感心した表情をした。

人間の生殖器官は、メスとオスでは大いに違う、メスの卵巣は生まれたときに容量が決まっていて、卵子の数も一生増えない、それにたいしてオスのほうは、死ぬまで精子を作る能力を持っている、だから射精すればそのたびに新しい精子が作られ、それこそ理論上は際限なく作り続けることができる。そこが男と女が違うところで、男は自分の精子の有効活用を求めて、ついつい浮気に走るというわけなんだ。筆者がこんな講釈をすると、熟女たちは、この助平爺めといった顔をして、筆者をにらんだ次第だった。

死ぬまで精子を作るといったって、年をとれば薄くなって、使い道がなくなるわよ、とT女がいう。いやそんなことはないさ、いくつになっても勢力旺盛な男はいくらでもいるよ、小生もそのひとりさ、と筆者が言うと、Y女が顔を赤らめて苦笑いする。

だいたいあなたの話はいつだって下のほうに落ちていくんだから、とT女が愚痴をいう。いや、下のほうに落ちるのは地球に重力があるからさ、重力がなければ、どんな人間も浮き草のようになってしまうじゃないか、と筆者は理屈をこねる。

こんな他愛ない話に興じているうち、ちゃんこ鍋の中が空に近くなる、そこを見計らって出汁を加え、うどんを突っ込む。うどんは出汁の脂を吸い込んで濃厚な味になった。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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