豊穣たる熟女たち
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豊穣たる熟女たちと銀座を歩く

久しぶりに豊穣たる熟女たちと会い、銀座を歩いた。前回会ったときには千鳥が淵の桜を見て、その後は居酒屋にしけこんだが、この日は銀座通りの柳並木を歩き、洒落た店に入ろうという魂胆だった。T女などは、銀座に行くと聞いて、和服姿でないのを残念がった。

日比谷線の銀座駅で下りて、外堀通りを歩く。柳並木が折からの雨に煙って、幽邃たる趣を呈している。やはり銀座はいいね、ほかの繁華街と比べて断然風格が違う、やはり歴史の重みのせいかな、大人の雰囲気だよ、こんなことを語らいあいながら、銀座阪急の前を通り、みゆき通りの交差点を過ぎ、何とかいうビルの中の、神楽という店に入った。

店の中の雰囲気は昔風のバーといったところ、ありがたいことに美味い和食を食わしてくれる。落ち着いた空間の中で、静かなジャズを聴きながら、懐石風の料理を味わえるというのは、なかなかできない贅沢だ。熟女たちはすっかり気に入ってくれたようだ。

生ビールで乾杯してから、洒落た小料理を食う。京風に纏め上げたものを盆に並べ、舌だけでなく目にも訴えかけてくる。そのうちタバコに火をつけようとしたM女が筆者のほうを向いて怪訝な顔つきをした、あら、いつからタバコをやめたの?

筆者がタバコをやめてからもう一月になる。最近は人が吸っているのをみても、吸いたいと思わなくなった、この調子だと本格的に禁煙ができそうだ。そのコツをM女が聞く。いや筆者の場合にはコツも何もなかったよ、なんとなく吸わずにいられるようになったんだ。こういうとM女は不思議な顔つきをしながら煙を吐き出す。

店の中には、我々のグループのほかには、ほとんど客の姿は見えない。そんなわけで会話も勢い遠慮がないものになる。筆者は彼女らがかわす話を聞くことのほうが多いのだが、そのうち先日行った健康診断の結果通知が昨日届いたのを思い出し、それをバッグから取り出して、内容を確認してみた。そんなことをしたのも、折から互いの体調が最大のテーマになっていたからだ。

検診結果は筆者にとっては深刻なものだった。大腸がんの潜血反応検査に引っかかったほか、前立腺にも異常があると指摘されたのだ。こんなことは始めてのことだ。昨年は白内障の初期状態にあることを指摘されたが、今年は一気にがんの可能性を指摘されたわけだ、少しは深刻に受けとらねば。

熟女らにも意外なことだったようで、三人とも盛んに心配してくれる。とにかく早く検診通知書をもって病院に行くのですよ、絶対サボってはだめですよ、必ず病院に行くようにメールで督促しますからね。

こんなわけで会話の後半は、専ら身体の病に集中した。前半では海外旅行の話などして結構楽しく過ごしていたのに、こんな調子では、もしかしたら旅行どころではなくなるかもしれない、人間身体に恙なくして始めて幸福追求の話もしうるのだと、へんなことを思い知らされた次第だ。

なお上の絵は、数年前に描いた西銀座外堀通り沿いの光景である。





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作者:壺齋散人(引地博信) All Rights Reserved (C) 2012
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